ベーブ・ルース賞は、MLBのポストシーズンで最も優れた活躍を見せた選手に贈られる賞です。2025年にはロサンゼルス・ドジャースの山本由伸が受賞し、日本人選手の歴史に新たな記録を刻みました。ワールドシリーズでの圧倒的な投球だけでなく、リーグ優勝決定シリーズなどを含むポストシーズン全体での貢献が評価される点に、この賞ならではの特徴があります。
賞の名称は伝説的な野球選手ベーブ・ルースに由来します。1940年代後半に始まった歴史、2007年の選考対象の変更、ワールドシリーズMVPとの違い、歴代受賞者の顔ぶれを整理すると、MLBの短期決戦を評価するうえで、この賞が持つ独自の意味が見えてきます。
【基本解説】ベーブ・ルース賞とは?MLBのポストシーズン最優秀選手賞

ベーブ・ルース賞(Babe Ruth Award)は、アメリカ野球記者協会(BBWAA)のニューヨーク支部が選出する、ポストシーズン最優秀選手の表彰です。
正式には、ニューヨーク支部が設けている支部独自の賞であり、MLBが主催するワールドシリーズMVPとは運営主体が異なります。BBWAAは全米の野球記者で構成される組織ですが、この賞を選ぶのは全国の記者全員ではなく、ニューヨーク支部です。
ニューヨーク支部の公式サイトでは、受賞対象を「Postseason MVP」と位置付け、どのチームに所属する選手であっても、ポストシーズンで最も優れた活躍をした選手に授与すると説明しています。
選手のポジションに制限はありません。ホームランや打点を量産した野手だけでなく、先発投手、救援投手も受賞できます。短期決戦でチームに大きな影響を与えた選手を評価する賞です。
名称に使われているベーブ・ルースは、ニューヨーク・ヤンキースの歴史を代表する伝説的な選手です。1948年に亡くなったルースの功績をたたえ、翌1949年にニューヨークの野球記者たちによって賞が設けられました。
つまり、この賞は単なるワールドシリーズの個人タイトルではありません。長い歴史を持つニューヨークの野球報道文化から生まれた、ポストシーズン全体を評価する表彰制度です。
【歴史と制度変更】1949年の創設から2007年の対象拡大まで
ベーブ・ルース賞の歴史を理解するうえで、特に重要なのが1949年と2007年です。この2つの年を境に、賞の位置付けと評価対象が大きく変化しました。
MLBの公式メディアガイドにも、ニューヨーク野球記者協会が1949年に賞を創設し、2006年まではワールドシリーズの最優秀選手を対象としていたこと、2007年からはポストシーズン全体へ対象を広げたことが記載されています。
| 年代 | 出来事 | 賞への影響 |
|---|---|---|
| 1948年 | ベーブ・ルースが死去 | 翌年の賞創設につながる |
| 1949年 | ベーブ・ルース賞が創設。初代受賞者はジョー・ペイジ | ニューヨーク支部による表彰が始まる |
| 1955年 | ワールドシリーズMVPの表彰が始まる | 別の選考主体による表彰制度が並立 |
| 1949〜2006年 | ワールドシリーズの活躍を対象に選出 | シリーズ内の最優秀選手を評価 |
| 2007年 | 選考対象をポストシーズン全体に拡大 | 地区シリーズやリーグ優勝決定シリーズも評価対象になる |
| 2025年 | 山本由伸が受賞 | ワールドシリーズMVPとの同時受賞を達成 |
初代受賞者は、ニューヨーク・ヤンキースの投手ジョー・ペイジです。1949年の受賞者としてニューヨーク支部の歴代記録にも名前が残っています。
その後、1955年にはスポーツ誌『Sport』によるワールドシリーズMVPの表彰が始まりました。こちらは後にMLBの公式表彰として定着し、現在のウィリー・メイズ・ワールドシリーズMVPにつながっています。
2つの賞が同じワールドシリーズの活躍を評価していた時代を経て、2007年にベーブ・ルース賞の対象が拡大されました。これによって、ワールドシリーズだけではなく、ポストシーズンの各ラウンドを通じた活躍を評価できる制度になりました。
この変更は、単に試合数が増えたという話ではありません。地区シリーズでの活躍、リーグ優勝決定シリーズでの勝負強さ、ワールドシリーズでの決定的な仕事を一つの評価軸で捉えられるようになったのです。
【選考基準】ベーブ・ルース賞は誰がどのように選ぶ?
ベーブ・ルース賞の選考主体は、BBWAAニューヨーク支部です。ニューヨーク支部の公式サイトは、この賞をポストシーズン全体で最も優れた選手に贈るものと説明しています。
一方、打率、防御率、ホームラン数などに何点ずつ配点するという、公開された統一採点式は示されていません。したがって、特定の個人成績だけで受賞が決まる賞ではありません。
選考を理解するうえで押さえておきたい評価のポイントは、次のとおりです。
1. ポストシーズン全体の成績
2007年以降はワイルドカードシリーズ、地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズ、ワールドシリーズの各段階が評価対象です。最後のシリーズだけでなく、チームが勝ち上がる過程でどれほど貢献したかが重要になります。
2. 打撃と投球の両面
野手であれば打率、出塁率、長打率、ホームラン、打点などが活躍を測る材料になります。投手の場合は勝敗、防御率、投球回、奪三振、被安打、救援での貢献などが注目されます。
実際に歴代受賞者には、デレク・ジーター、マリアノ・リベラ、サンディ・コーファックス、マディソン・バムガーナーなど、異なる役割でチームを支えた選手が並んでいます。
3. 試合の重要局面での貢献
短期決戦では、同じ1安打や1イニングでも、試合の状況によって意味が異なります。勝敗を左右する場面での活躍や、連戦の中でチームを支えた働きも、選手のポストシーズン全体への貢献を考える材料になります。
4. 優勝チーム以外の選手も対象
受賞はワールドシリーズ優勝チームに限定されません。公式の説明も、どのチームの選手であっても対象になるという原則を示しています。優勝チームに所属していることだけで受賞が決まるわけではありません。
また、2017年にはホセ・アルトゥーベとジャスティン・バーランダー、2019年にはフアン・ソトとスティーブン・ストラスバーグが共同受賞しています。必ず毎年1人だけが選ばれる制度でもありません。
【徹底比較】ベーブ・ルース賞とワールドシリーズMVPの違い
ベーブ・ルース賞を調べる際に、最も混同されやすいのがワールドシリーズMVPです。どちらもポストシーズンの活躍を評価する賞ですが、選考主体と対象範囲が異なります。
ワールドシリーズMVPは、MLBが主催するワールドシリーズの最優秀選手賞です。MLB.comの公式記録では1955年からの受賞者が掲載されています。現在はウィリー・メイズ・ワールドシリーズMVPという名称で扱われています。
一方、ベーブ・ルース賞はBBWAAニューヨーク支部が選ぶ賞であり、2007年以降はワールドシリーズ以前のラウンドも評価します。
両者の主な違いを整理すると、次のようになります。
- ベーブ・ルース賞:BBWAAニューヨーク支部が選考。ポストシーズン全体の活躍が対象。
- ワールドシリーズMVP:MLBが主催。ワールドシリーズの活躍が対象。
- 共通点:いずれも短期決戦での選手の貢献を評価する表彰。
- 相違点:選考主体と評価する試合の範囲が異なる。
この違いがよく分かる事例が2024年です。
2024年のベーブ・ルース賞は、ドジャースのムーキー・ベッツが受賞しました。AP通信によると、ベッツはポストシーズン16試合で打率.290、4本塁打、16打点、11四球を記録しています。
一方、同年のワールドシリーズMVPはフレディ・フリーマンでした。フリーマンはワールドシリーズで歴史的な活躍を見せましたが、ポストシーズン全体を評価するベーブ・ルース賞はベッツに贈られました。
つまり、両方の賞が同じ選手に贈られるとは限りません。
2025年の山本由伸は、この2つを同時に受賞したケースです。2024年との違いを知っておくと、各賞の役割がより明確になります。
【歴代受賞者一覧】ベーブ・ルース賞の名選手と複数受賞記録
ベーブ・ルース賞の歴代受賞者には、MLBの歴史を代表する名選手が並んでいます。ニューヨーク支部の公式記録と各年度の受賞発表をもとに、1949年から2025年までの受賞者を年代順に整理します。
1949〜1959年
1949年ジョー・ペイジ、1950年ジェリー・コールマン、1951年フィル・リズート、1952年ジョニー・マイズ、1953年ビリー・マーティン、1954年ダスティ・ローズ、1955年ジョニー・ポドレス、1956年ドン・ラーセン、1957年ルー・バーデット、1958年エルストン・ハワード、1959年ラリー・シェリー。
1960〜1969年
1960年ビル・マゼロスキー、1961年ホワイティ・フォード、1962年ラルフ・テリー、1963年サンディ・コーファックス、1964年ボブ・ギブソン、1965年サンディ・コーファックス、1966年フランク・ロビンソン、1967年ルー・ブロック、1968年ミッキー・ロリッチ、1969年アル・ワイス。
1970〜1979年
1970年ブルックス・ロビンソン、1971年ロベルト・クレメンテ、1972年ジーン・テナス、1973年バート・カンパネリス、1974年ディック・グリーン、1975年ルイス・ティアント、1976年ジョニー・ベンチ、1977年レジー・ジャクソン、1978年バッキー・デント、1979年ウィリー・スタージェル。
1980〜1989年
1980年タグ・マグロウ、1981年ロン・セイ、1982年ブルース・スーター、1983年リック・デンプシー、1984年ジャック・モリス、1985年ブレット・セイバーヘイゲン、1986年レイ・ナイト、1987年フランク・バイオーラ、1988年オーレル・ハーシュハイザー、1989年デーブ・スチュワート。
1990〜1999年
1990年ビリー・ハッチャー、1991年ジャック・モリス、1992年デーブ・ウィンフィールド、1993年ポール・モリター、1994年該当者なし、1995年トム・グラビン、1996年セシル・フィルダー、1997年モイゼス・アルー、1998年スコット・ブロシアス、1999年マリアノ・リベラ。
2000〜2009年
2000年デレク・ジーター、2001年ランディ・ジョンソン、2002年トロイ・グロース、2003年ジョシュ・ベケット、2004年キース・フォーク、2005年ジャーメイン・ダイ、2006年デビッド・エクスタイン、2007年ジョナサン・パペルボン、2008年コール・ハメルズ、2009年アレックス・ロドリゲス。
2010〜2019年
2010年ティム・リンスカム、2011年デビッド・フリース、2012年パブロ・サンドバル、2013年デビッド・オルティス、2014年マディソン・バムガーナー、2015年ウェイド・デービス、2016年ジョン・レスター、2017年ホセ・アルトゥーベとジャスティン・バーランダー、2018年デビッド・プライス、2019年フアン・ソトとスティーブン・ストラスバーグ。
2020〜2025年
2020年ランディ・アロザレーナ、2021年フレディ・フリーマン、2022年ジェレミー・ペーニャ、2023年アドリス・ガルシア、2024年ムーキー・ベッツ、2025年山本由伸。
この歴代記録から、いくつかの興味深い特徴が読み取れます。
複数回受賞した選手はサンディ・コーファックスとジャック・モリス
野球記録資料のBaseball Almanacによると、ベーブ・ルース賞を2回受賞した選手はサンディ・コーファックスとジャック・モリスです。
コーファックスは1963年と1965年、モリスは1984年と1991年に受賞しています。長い歴史を持つ賞ですが、複数回受賞の記録はこの2人が際立っています。
共同受賞も歴史に残る
2017年はホセ・アルトゥーベとジャスティン・バーランダー、2019年はフアン・ソトとスティーブン・ストラスバーグがそれぞれ共同受賞しました。異なるポジションや役割の選手が、同じポストシーズンで高く評価されることもあります。
1994年は受賞者なし
ニューヨーク支部の歴代受賞者一覧では、1994年は「No Selection」と記録されています。毎年必ず受賞者が出るわけではない点も、歴代記録を見るうえで押さえておきたいポイントです。
【2025年受賞理由】山本由伸はなぜベーブ・ルース賞に選ばれたのか?2026年最新情報
2025年のベーブ・ルース賞を受賞したのは、ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸です。
ニューヨーク支部は山本をポストシーズン最優秀選手として選出しました。MLB.comの公式選手プロフィールにも、2025年のワールドシリーズMVPとベーブ・ルース賞の両方を獲得したことが記録されています。
受賞を裏付ける数字は非常に印象的です。
- ポストシーズン成績:5勝1敗
- 登板:6試合
- 投球回:37回1/3
- 防御率:1.45
- 奪三振:33
- WHIP:0.78
- 登板内訳:先発5試合、救援1試合
数字だけでも優れた結果ですが、山本の受賞理由を理解するには、各シリーズでの働きを見る必要があります。
ナ・リーグ優勝決定シリーズでの完投勝利
山本はミルウォーキー・ブルワーズとのリーグ優勝決定シリーズ第2戦で9回を投げ切り、完投勝利を挙げました。ポストシーズンの重要な局面で、相手打線を抑えながら最後までマウンドを守ったことは大きな貢献でした。
ワールドシリーズ第2戦でも完投
トロント・ブルージェイズとのワールドシリーズ第2戦でも9回を投げ、1失点で完投勝利を記録しました。リーグ優勝決定シリーズに続くポストシーズンでの完投であり、先発投手としての安定感を強く印象付けました。
第6戦から第7戦にかけての連投
山本の評価をさらに高めたのが、ワールドシリーズ終盤の働きです。第6戦では6回を投げて1失点。さらに翌日の第7戦では、プロ入り後初の救援登板で2回2/3を投げ、チームの世界一に貢献しました。
先発として試合を作るだけでなく、チームが必要とする場面で救援に回った点も、2025年のポストシーズンを象徴する働きでした。
AP通信の2025年12月12日付報道でも、山本は5度の先発と1度の救援登板で5勝1敗、防御率1.45を記録したと伝えられています。ドジャースの連覇を支えた投球内容が、ニューヨーク支部から高く評価された形です。
ワールドシリーズMVPとベーブ・ルース賞を同時に獲得したことも、2025年の山本の実績を語るうえで欠かせません。シリーズ単体でも、ポストシーズン全体でも、最高水準の評価を受けたことになります。
2026年の最新情報:受賞者はまだ発表されていない
2026年11月1日時点では、2026年シーズンのベーブ・ルース賞受賞者はまだ発表されていません。
2025年シーズン分については、ニューヨーク支部の公式サイトが2026年1月24日に開催された第101回ニューヨーク・ベースボール・ライターズ・ガラの受賞者として山本由伸を掲載しています。
2026年のワールドシリーズMVPは、MLB公式のポストシーズン表彰記録でミルウォーキー・ブルワーズのウィリアム・コントレラスとされています。ただし、ワールドシリーズMVPとベーブ・ルース賞は別の表彰です。コントレラスの受賞が、そのままベーブ・ルース賞の受賞を意味するわけではありません。
2026年の受賞者を判断する際は、ニューヨーク支部による正式発表を確認する必要があります。
【ベーブ・ルース賞】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ベーブ・ルース賞とワールドシリーズMVPは同じ賞ですか?
A1:別の賞です。ベーブ・ルース賞はBBWAAニューヨーク支部が選び、2007年以降はポストシーズン全体を対象にしています。ワールドシリーズMVPはMLBが主催し、ワールドシリーズでの活躍を評価します。
Q2:山本由伸は2025年に何の賞を受賞しましたか?
A2:山本由伸は2025年のベーブ・ルース賞とワールドシリーズMVPを同時に受賞しました。ポストシーズンでは5勝1敗、防御率1.45、37回1/3、33奪三振という成績を残しています。
Q3:ベーブ・ルース賞は誰が選考するのですか?
A3:全米野球記者協会(BBWAA)のニューヨーク支部が選考します。MLB全体の記者が投票する通常のリーグMVPやサイ・ヤング賞とは選考主体が異なります。
Q4:2026年のベーブ・ルース賞受賞者は誰ですか?
A4:2026年11月1日時点では未発表です。2026年のワールドシリーズMVPはウィリアム・コントレラスですが、ベーブ・ルース賞は別の選考となります。
Q5:ベーブ・ルース賞は優勝チームの選手しか受賞できませんか?
A5:いいえ。優勝チームに限定されていません。ニューヨーク支部の公式説明では、どのチームの選手でもポストシーズンで最も優れた活躍をすれば対象になるとされています。
ベーブ・ルース賞は、1949年に創設された歴史ある表彰制度です。初代受賞者はジョー・ペイジで、2006年まではワールドシリーズの活躍が対象でした。2007年からはポストシーズン全体に評価範囲が広がっています。
ワールドシリーズMVPとの違いは、選考主体だけでなく、評価対象となる試合の範囲にもあります。2024年のムーキー・ベッツとフレディ・フリーマンのように、それぞれ別の選手が受賞することもあれば、2025年の山本由伸のように両方を同時に獲得することもあります。
山本由伸の2025年の受賞は、圧倒的な防御率や奪三振数だけでなく、リーグ優勝決定シリーズからワールドシリーズ第7戦まで、チームが必要とする場面で結果を残したことを象徴しています。
今後、2026年の受賞者を確認するときも、ワールドシリーズMVPだけで判断するのではなく、ポストシーズン全体の投打の成績や試合への貢献に注目することが大切です。ベーブ・ルース賞の本質は、短期決戦の最後の一試合だけでは測れない、選手の総合的な価値を評価するところにあります。