箱根駅伝の歴史を語るうえで欠かせない存在が、山上りの5区で驚異的な走りを見せた「山の神」だ。初代・今井正人、2代目・柏原竜二、3代目・神野大地という3人の名は、箱根駅伝ファンの記憶に深く刻まれている。そして2026年1月2日、第102回大会では青山学院大学の黒田朝日が1時間7分16秒という圧倒的な区間新記録を樹立。「シン・山の神」と呼ばれる新たなスターが誕生した。
ただし、歴代選手のタイムを単純に並べるだけでは、本当の実力は比較できない。5区は2006年、2015年、2017年と距離やコースが変更されており、今井や柏原が走った時代と黒田が走った現在では記録の条件が異なるからだ。大久保初男という「元祖山の神」の存在や、4代目をめぐる議論も含め、2026年時点の記録と歴史を整理する。
【結論】箱根駅伝歴代山の神は誰?初代から2026年のシン・山の神まで

箱根駅伝で「山の神」として広く知られる歴代の代表選手は、次の3人だ。
- 初代:今井正人(順天堂大学) 2005~2007年に5区で3年連続区間賞。
- 2代目:柏原竜二(東洋大学) 2009~2012年に5区で4年連続区間賞。
- 3代目:神野大地(青山学院大学) 2015年に5区区間新記録を樹立。
そして2026年、第102回大会で新たに歴史を動かしたのが青山学院大学の黒田朝日だ。5区で1時間7分16秒を記録し、前年に若林宏樹が樹立した1時間9分11秒を1分55秒も更新した。
黒田はトップと3分24秒差の5位でタスキを受け取り、驚異的な追い上げで青学大の往路優勝に貢献。大会後には原晋監督とともに「シン・山の神」という呼び名が広まった。
ここで押さえたいのは、黒田が単純に4代目を名乗ったわけではないことだ。本人と原監督は、従来の代数による継承とは異なる「シン・山の神」という名称を事前に考えていたと明かしている。
つまり、2026年の新しい称号は、今井、柏原、神野の系譜を受け継ぎながらも、独自の意味を持たせたものだった。
【歴代の実績を比較】大久保初男から黒田朝日までの5区成績一覧
歴代山の神を比較するなら、3人の著名な選手だけでなく、その先駆者である大久保初男も見逃せない。
大東文化大学の大久保初男は1974~1977年に5区で4年連続区間賞を獲得した選手だ。現在のように「山の神」という呼称が一般化する以前から、山上りのスペシャリストとして活躍していた。
以下は、各選手の主な5区成績をまとめたものだ。記録は大会公式の歴代区間賞記録を中心に整理している。
| 選手・位置づけ | 大学 | 5区の主な成績 | 当時の距離 |
|---|---|---|---|
| 大久保初男(先駆者) | 大東文化大学 | 1974~77年、4年連続区間賞。最高1時間11分48秒 | 当時のコース |
| 今井正人(初代) | 順天堂大学 | 2005年1時間9分12秒、2006年1時間18分30秒、2007年1時間18分5秒。3年連続区間賞 | 20.9km/23.4km |
| 柏原竜二(2代目) | 東洋大学 | 2009年1時間17分18秒、2010年1時間17分8秒、2011年1時間17分53秒、2012年1時間16分39秒。4年連続区間賞 | 23.4km |
| 神野大地(3代目) | 青山学院大学 | 2015年1時間16分15秒で区間賞・区間新。2016年は1時間19分17秒で区間2位 | 23.2km |
| 黒田朝日(シン・山の神) | 青山学院大学 | 2026年1時間7分16秒で区間賞・区間新 | 20.8km |
この表から分かるのは、単純なタイムだけでなく、連続して区間賞を獲得した実績も山の神を評価する重要な材料になるということだ。
大久保は4年連続、今井は3年連続、柏原は4年連続で区間賞を獲得している。一方、神野は2015年の区間新記録によって青学大の初優勝を後押しし、黒田は2026年に現行コースの記録を大幅に塗り替えた。
なお、上記のタイムは異なる距離の記録を含む。特に2005年の今井の記録と、2006年以降の記録ではコース条件が違うため、数字だけで優劣を決めることはできない。
【初代・2代目・3代目】今井正人、柏原竜二、神野大地の伝説
初代・今井正人:順天堂大学の山上りを象徴する存在
今井正人は福島県出身。順天堂大学時代、箱根駅伝の5区で圧倒的な存在感を示した。
特に注目されたのが2005年の第81回大会だ。当時2年生だった今井は、20.9kmの5区で1時間9分12秒を記録。従来の区間記録を2分17秒も更新する区間新記録を打ち立てた。
加えて、山上りで11人を抜くという印象的な走りを披露。翌2006年、2007年も区間賞を獲得し、3年連続で5区のトップを守った。
2007年の第83回大会では、今井の走りをめぐる実況から「山の神」という呼称が広く知られるようになった。日本テレビの公式インタビューで今井本人も、当時のライバルだった日本体育大学の北村聡の発言と、河村亮アナウンサーの実況が呼称の広がるきっかけだったと振り返っている。
今井の功績は、単に速かったことだけではない。5区の山上りを、チームの順位を大きく変える勝負の舞台として印象づけたことにある。
2代目・柏原竜二:東洋大学を4年連続で支えた絶対的エース
柏原竜二は、東洋大学の歴史を語るうえでも欠かせない存在だ。
2009年の第85回大会で1年生ながら5区を任され、1時間17分18秒で区間賞を獲得。翌2010年、2011年、2012年も連続して区間賞を獲得し、大学4年間すべてで山上りの区間トップに立った。
特筆すべきは、どのような展開でも結果を出す安定感だ。5区は長い上り坂だけでなく、終盤には下りも待ち受ける。体力、ペース配分、下りへの対応力が問われる特殊な区間である。
柏原は4年間にわたり、その難しい区間で結果を残した。最終学年の2012年には1時間16分39秒を記録している。
4年連続区間賞という実績は、単発の区間新記録とは異なる価値を持つ。山上りの適性を4年間維持し、チームの往路戦略を支え続けた点で、柏原は歴代でも特別な存在だ。
3代目・神野大地:青山学院大学の初優勝を導いた新世代の山の神
神野大地は、青山学院大学の黄金時代を象徴するランナーの一人だ。
2015年の第91回大会では、3年生で5区を担当。1時間16分15秒の区間新記録を樹立し、青学大の往路優勝と総合初優勝に大きく貢献した。
それまでの山上りの常識を覆すような快走は、今井、柏原に続く「3代目山の神」という呼称につながった。
翌2016年も5区を担当し、1時間19分17秒で区間2位。2年連続で山上りを任されたことも、神野の実力とチームからの信頼を示している。
神野の特徴は、単に上り坂を得意とするだけでなく、大学の総合力を象徴する重要な場面で結果を残したことだ。青学大が箱根駅伝の強豪として存在感を高めていく過程で、その走りは大きな意味を持った。
【5区のコース変更】なぜ歴代山の神のタイムは単純比較できないのか
歴代の山の神を比較するとき、最も注意したいのが5区のコース変更だ。
現在の5区は小田原から箱根・芦ノ湖までの20.8km。しかし、今井、柏原、神野が活躍した時代には、現在より長い距離を走っていた。
主な変更は次のとおりだ。
2005年以前から2006年への変更
第82回大会となる2006年、往路の小田原中継所が移動したことに伴い、5区は20.9kmから23.4kmに延長された。これにより、山上りの負担が増し、5区がレース全体に与える影響も大きくなった。
今井が2005年に記録した1時間9分12秒と、2006年以降の1時間18分台は、距離が違うため直接比較できない。タイムが遅くなったからといって、今井の走力が落ちたわけではない。
2015年の函嶺洞門バイパスによる変更
2015年の第91回大会からは、函嶺洞門が通行禁止になったことを受けて、新設されたバイパスを通るコースに変更された。
関東学生陸上競技連盟の2014年10月8日付発表によると、再計測の結果、5区は23.4kmから23.2kmになった。また、コースが明確に変更された5区と6区については、第91回大会以降の記録を新たな区間記録として扱い、それ以前の記録を参考記録とする方針が示された。
神野大地が2015年に記録した1時間16分15秒は、この新しい23.2kmのコースでの区間記録だった。
2017年の大幅な距離短縮
第93回大会となる2017年から、5区は23.2kmから20.8kmへ短縮された。同時に4区は18.5kmから20.9kmへ延長された。
この変更の背景には、長距離の山上りによる選手の身体的負担があった。関東学生陸上競技連盟は、低体温症や低血糖症の発生、5区が総合成績を左右しすぎる問題などを踏まえて距離の再編を決定した。
つまり、2017年以降の選手は、今井や柏原が走った時代より短い距離で区間記録を競っている。
そのため、黒田朝日の1時間7分16秒と、柏原竜二の1時間16分39秒を並べて、単純に黒田の方が9分以上速いと評価するのは正確ではない。
比較するときは、距離、コース、区間賞の回数、チームへの貢献を分けて考える必要がある。
【歴代山の神の現在】今井正人・柏原竜二・神野大地・黒田朝日の進路
箱根駅伝で伝説を残した選手たちは、大学卒業後もそれぞれの道を歩んでいる。2026年時点での主な動向を整理する。
今井正人:2026年4月からトヨタ自動車九州のヘッドコーチ
今井は大学卒業後、トヨタ自動車九州に入社し、実業団選手としてマラソンを中心に活動した。2015年の東京マラソンでは2時間7分39秒を記録し、同年の北京世界選手権男子マラソン日本代表にも選ばれている。
2024年2月には現役引退を発表。その後は母校・順天堂大学で長距離コーチを務めていた。
月刊陸上競技の2026年3月24日付報道によると、今井は同年4月1日付でトヨタ自動車九州のヘッドコーチに就任した。山の神としての経験を、今度は後進の育成に生かす立場となっている。
柏原竜二:2026年3月末に富士通を退職
柏原は大学卒業後、富士通に入社。競技生活を経て、同社で勤務してきた。
2026年3月24日、柏原は自身のXで、同月31日をもって富士通を退職することを報告した。4月以降については、企業に属さず、フリーランスに近い形で活動する意向を示している。
現役時代の競技実績だけでなく、駅伝関連のイベントや発信など、今後の活動にも注目が集まる。
神野大地:MABPマーヴェリックの選手兼監督
神野は大学卒業後、実業団のコニカミノルタを経て、2018年にプロランナーへ転向した。
2019年にはアジアマラソン選手権で優勝。2025年にはMABPマーヴェリックのプレイングマネージャーに就任し、競技者として走りながらチームの運営・強化にも携わっている。
箱根駅伝で山の神と呼ばれた選手が、現在は実業団チームの成長を担う立場にいる点も興味深い。
黒田朝日:2026年4月からGMOインターネットグループ陸上部
2026年にシン・山の神となった黒田は、青山学院大学卒業後、GMOインターネットグループ陸上部に所属した。
同社は2025年7月29日付の公式発表で、黒田の2026年4月1日付入社予定を公表していた。大学時代から2区での好走やマラソンの学生記録などでも実績を残しており、今後は実業団での駅伝とマラソンの両面での活躍が期待される。
歴代の山の神は、現役引退後に指導者や会社員、プロランナーなど、それぞれ異なる道を選んでいる。箱根駅伝での称号は、その後の人生を決めるものではなく、競技人生における大きな実績の一つなのだ。
【プロの結論】箱根駅伝の4代目は誰?黒田朝日は歴代最強なのか
ここで整理しておきたいのが、「箱根駅伝の山の神4代目は誰なのか」という疑問だ。
実は、この呼称には大会主催者が定めた公式の代数認定制度があるわけではない。区間記録や区間賞は公式に記録される一方、「山の神」は実況、監督、報道などを通じて定着した愛称である。
そのため、4代目をめぐっては時期によって異なる呼び方が生まれている。
青山学院大学の若林宏樹は、2022年に原晋監督から「若の神」と呼ばれ、将来の4代目を期待された選手だった。2025年には5区で1時間9分11秒の区間新記録を樹立。原監督から4代目山の神の称号を贈られたことも報じられている。
しかし若林は2025年の箱根駅伝を最後に競技生活を終え、社会人としての道へ進んだ。
そして2026年、黒田朝日が新たな区間記録を樹立した際、原監督と本人は「4代目」という表現ではなく「シン・山の神」を選んだ。
日刊スポーツのインタビューによると、黒田は「シン」に複数の意味を込めていると説明している。「新しい」という意味の新、「真の」という意味の真など、従来の称号を超える意図があった。
原監督も2026年1月の発信で、新・真・伸・心といった複数の意味を込めた名称だと説明している。
したがって、黒田を機械的に4代目と分類するよりも、2026年の「シン・山の神」という独自の称号を尊重するのが実態に近い。
では、歴代最強は誰なのか。
評価する基準によって答えは変わる。
- 連続した安定感を評価するなら:4年連続で5区区間賞を獲得した柏原竜二。
- 山の神という呼称の象徴性を評価するなら:初代として歴史を築いた今井正人。
- 新しいコースでの区間新記録を評価するなら:2015年の神野大地。
- 現行コースの圧倒的な記録を評価するなら:2026年の黒田朝日。
- 現代以前の山上りの先駆的実績を評価するなら:4年連続区間賞を獲得した大久保初男。
このように、誰か一人を絶対的な最強選手と決めることは難しい。歴代山の神の価値は、それぞれ異なる時代の箱根駅伝で、5区という特殊な舞台にどのようなインパクトを残したかによって評価すべきだ。
特に黒田の1時間7分16秒は、現行20.8kmコースの区間記録として極めて大きな価値を持つ。一方、柏原の4年連続区間賞や今井の11人抜きも、別の尺度で高く評価されるべき記録だ。
【箱根駅伝歴代山の神】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:箱根駅伝の初代山の神は誰ですか?
A1:順天堂大学の今井正人です。2005年から2007年まで5区で3年連続区間賞を獲得し、2005年には1時間9分12秒の区間新記録を樹立しました。
Q2:箱根駅伝の2代目・3代目山の神は誰ですか?
A2:2代目は東洋大学の柏原竜二、3代目は青山学院大学の神野大地です。柏原は4年連続区間賞、神野は2015年に5区の区間新記録を樹立しました。
Q3:2026年にシン・山の神と呼ばれた選手は誰ですか?
A3:青山学院大学の黒田朝日です。第102回大会の5区で1時間7分16秒を記録し、前年の区間記録を1分55秒更新しました。
Q4:箱根駅伝の山の神4代目は黒田朝日ですか?
A4:黒田は2026年に「シン・山の神」と呼ばれています。原監督と本人は、従来の代数による呼び方ではなく、独自の意味を込めた称号を選びました。なお、若林宏樹も2025年に原監督から4代目山の神と呼ばれています。
Q5:歴代山の神の5区タイムは比較できますか?
A5:単純比較はできません。5区は2006年に20.9kmから23.4kmへ延長され、2015年には23.2km、2017年には20.8kmへ変更されています。異なるコースの記録は距離と条件を考慮して評価する必要があります。
Q6:大久保初男は山の神に含まれますか?
A6:大久保初男は大東文化大学の山上りの名選手で、1974~1977年に4年連続区間賞を獲得しました。現在では「元祖山の神」と呼ばれることがありますが、今井、柏原、神野の初代から3代目という呼称とは、時代背景を分けて考える必要があります。
箱根駅伝の歴代山の神を振り返ると、初代・今井正人、2代目・柏原竜二、3代目・神野大地という3人が、5区の歴史を大きく変えてきたことが分かる。その先駆者として、大久保初男の4年連続区間賞も忘れてはならない。
そして2026年には、黒田朝日が1時間7分16秒という現行コースの新記録を樹立。「シン・山の神」という新たな称号とともに、箱根駅伝の歴史に名を刻んだ。
歴代の実績を正しく理解するために重要なのは、区間タイムだけでなく、コース距離、区間賞の継続性、チームへの貢献度を総合的に見ることだ。
今井の衝撃的な11人抜き、柏原の4年連続区間賞、神野の青学初優勝への貢献、そして黒田の現行コースでの圧倒的な区間新記録。それぞれが異なる時代の箱根駅伝を象徴している。
次回以降の箱根駅伝でも、5区は各大学の戦略と選手の個性がぶつかる重要区間であり続けるだろう。新たな山の神が生まれるのか、それとも黒田朝日の記録がさらに更新されるのか。歴代の伝説と比較しながら観戦することで、箱根駅伝の楽しみはさらに深まる。
主な参照資料: 東京箱根間往復大学駅伝競走公式サイトの歴代区間記録、日本テレビ箱根駅伝公式サイト、関東学生陸上競技連盟の距離変更資料、日刊スポーツ、月刊陸上競技、GMOインターネットグループ公式発表。